「ねぇねぇ菊ちゃんって大石くんと仲良いいよね?」
「あぁ!うん!すっげー仲いいけど!」
「そうだよね!それでね聞きたい事があるんだけど・・・
大石くんって好きな子いるのかな?」
「はっ?」
「聞いたこと無い?」
「さぁ?そんな事は興味ないんじゃないの」
「じゃあさ・・・不二くんは?」
「知らないよー!そんな話しないもん」
さぁ今から帰って大石とラブラブテスト勉強・・って思っていたらクラスの女子に捕まった。
一体何の話?って軽くホイホーイって返事したのが間違いだったんだ・・・だって・・・
何だよ!この質問攻め!!
何で俺がこんな事答えなきゃいけない訳?
1月も後半に入って、最近女子がよくバレンタインの話をしてるなぁ〜とは思っていたけど・・・何コレ?
まさか・・・・ひょっとして・・・やっぱアレか?
この時期に女が男に聞く話なんて、考えるまでもないか・・・
だからわかった上で・・・それを聞いてどうすんだ?って事を、俺はイライラしそうな心を何とか押し留めて聞き出したんだけど・・・・
聞いた話はとんでもない話だった。
「バレンタインの日にテニス部元レギュラー陣をターゲットに告白?」
「シーッ!!内緒だからね!菊ちゃんだから話たんだから!!」
「でもさ、その日テスト最終日だし、みんなそれどころじゃないんじゃないの?」
「最終日だからいいんじゃない」
「そういうものなのか・・・
あっでもさ!俺が知らないだけで、みんな好きな奴とかいるかもよ」
「あぁ。それも大丈夫。みんな玉砕覚悟だし・・ほらやっぱり卒業じゃん。
みんな最後に思い出が欲しいのよね・・・それで上手くいけばラッキーだし」
「・・・・・」
ラッキー・・・・って・・・
何だそれ?
それにそれだと、俺にあれこれ聞いたの関係ないじゃん!
結局は俺達に好きな奴がいようがいまいが告白するって事だろ?
女って・・・怖い・・・
ハァ・・って俯くと、最後にその子が思い出したように付け加えた。
「あっ!それと最後にいいかな?菊ちゃん好きな子いる?」
「へっ・・俺?」
・・・3年2組 大石秀一郎です。
俺は心の中で呟いた。
「ハハハハ・・・可笑しい。それで英二なんて答えたの?」
「だから大石って答えれる訳ないし、適当に誤魔化して逃げた」
昨日クラスの女子に言われた事を不二に話して説明した。
ホントなら昨日大石に相談して、何かいい答えが見つかればそれに越した事はなかったんだけど
まぁ大石だもんな・・・結局いい考えなんて出なくて・・・
でも愛は深めちゃったからいいけどね・・・ニャハハ・・・
って思い出してる場合じゃなかった。
「不二っ!笑い事じゃないんだぞ!兎に角不二だって手塚だってターゲットなんだかんな!」
「あぁ・・うん。ごめん。そうだね」
不二は謝りながらも、まだ笑っている。
ホント頼りがいはあんだけど、何だかんだで実は笑い上戸なんだよな・・不二は・・・
「ホントに真剣に考えてよ。俺達の大切なバレンタインがどうなるか、懸かってんだから」
「うん。うん。そうだね」
不二はようやく笑いを止めて、真面目な顔つきになった。
「確かに・・・今年のバレンタインは邪魔されたくないかな」
「だろ?なっ!で・・・どうする」
俺は身を乗り出して、不二に顔を近づけた。
「そうだな・・・まぁその日はテスト最終日だから、まず絶対に教室から出ない」
「うんうん」
「その間に声をかけられても、今は最後のテスト勉強中だって言えばいいし・・・
まぁテストの合間に声をかけて来る子なんて、普通の考えじゃいないって思いたいけどね」
確かにいないと思いたいけど・・・
向こうも卒業っていうのがあるかんな、必死にアプローチしてくる事もあるかもだし・・・
気をつけなきゃな・・・
「うんうん。そうだね。それで・・・」
「問題は、テストの後・・・だよね」
「そうだよ。一番ヤバイのがその後なんだよ」
捕まったら最後、次から次へと新たな女子に告白されて収拾がつかなくなる恐れがある。
大石なんて絶対ヤバイ、アイツは断るとか逃げるとかホント苦手だもんな。
まぁそれは手塚も一緒か・・・いや・・でも手塚は愛想が無い分、告白されても話が長引くって事はないだろうな。
やっぱ不味いのは大石だよ。
「それで思うんだけど、その日にテニスをするっていうのはどうかな?」
「えっテニス?」
「そう部活に出るの」
「部活に出るって・・・そんな事したらみんな部室やコートに集まって大変な事になるじゃんか」
そうだよ。去年も部室の前で大変な思いをしたんだから・・・
だけど不二はフフッと笑って、何だか楽しそうだ。
「だろうね」
だろうねって・・・何だか余裕の表情だけど・・・
「それじゃあ駄目じゃん!」
思わずツッコンだ。
不二の余裕がわからない・・・何かいい方法があんのか?
「でもさ・・・実際は出ないとしたら?」
「へ?出ないの?」
「そう出ないの」
「でも出るんだろ?」
「うん」
あ〜〜何だかこんがらがってきた・・・一体どういう事なんだ?
「もっとわかる様に話してくれよ」
「フフッ・・だからね。その日に部活に出るって噂を流すんだ。そして実際出るフリをして出ないって事」
「それって・・・」
「そうするとみんな必然的に部室やコートに集中して集まるだろうから・・・
僕達はその間にこっそり学校を抜け出す」
「ひでぇ!!」
「じゃあ。英二は大石と一緒に女子の相手してあげたら」
「いや・・それは・・・」
「じゃあ決まりだね」
不二は優しく微笑んだ。
不二って・・・ホント怖い・・・
ていうか・・・絶対敵に回したくないタイプだよな。
「でっでもさ・・・その日マジで部活あるじゃん!桃とか海堂とか・・いいのかな?」
「うん。だからそれは・・・こういう話が出てるって英二から教えてあげなよ。
まぁでも、もともとバレンタインの日はテニス部は賑わうんだから多少増えても問題ないと思うけどね」
問題ないって・・・ホントに問題ないんだろうか・・・?
「じゃあさ。乾とタカさんはどうすんの?乾なんて海堂が部活出るから大変じゃん」
「それは乾が考えるんじゃない?」
「うわぁ・・・」
「何?」
「何でもないです」
「兎に角・・乾とタカさんは僕が伝えておくから、英二は桃と海堂に伝えておいてよ。
少しだけ迷惑かけるってね」
少しだけね・・・さっきは問題なって言ってなかったか・・・?
って事は口に出して言えないけどね・・・
ホント不二は怖いよ。
しれっと優しく微笑みながら、俺達に都合のいい最善の方法を考え付くんだから・・
だけど乾・・・大丈夫かな?
アイツだって海堂と色々考えてたかも知れないのに・・・
でも不二に言われたら、反論は出来ないだろうな・・・可哀想だけど・・・
まぁ・・まだ時間もあるし、乾なら何とかするか。
問題は桃と海堂だよな・・・なんて言えばいいんだろ・・・
アイツらはおもいっきり俺達のごたごたに付き合わす形になるもんな・・・
少し悩んでう〜んと唸ると、不二が俺の頭をポンポンと叩いた。
「そんなに考えなくても大丈夫だよ英二。僕達元レギュラーが本当は来ないってわかれば、女子達だっていつまでも部室やコートに居座ったりしないだろうから」
「あっそっか!だよなっ!」
不二ってホント凄い。
ちゃんとやっぱ考えてんだな・・・怖いなんて思って悪かった。
不二は最高だよ。やっぱ天才。
という事は・・・うんうん。これでバレンタインはバッチリだよ!!
大石と甘〜いひと時が過ごせる!!
今年も頑張って作るぞ!!
俺は嬉しさのあまり、ニシシって小さくガッツポーズをした。
「それよりさぁ・・・英二。今年も作るの?」
すっかり自分の世界に入り込んでいた俺は、ガッツポーズのまま『へ?』と顔を上げると
珍しく不二が身を乗り出して、俺の顔を覗き込んでいた。
「あっうん。そのつもりだけど」
「じゃあさ。今年は僕と一緒に作らない?ちょうど今度の日曜日誰もいないんだ」
「えっ?マジ?いいよ!!ってか不二も手作りするんだ」
「まぁ・・一人じゃ自信ないけど・・・英二が一緒なら作ってみたいかな・・って」
「うんうん。そっか・・よし!がんばろう!!めちゃくちゃ甘いの作ってさぁ手塚ビックリさせてやろうぜ!」
「うん」
あぁ〜〜なんだかワクワクしてきたな。
不二と手作りチョコを作るなんて初めてだし、どんなの作ろうかな〜
ってアレ?
そういえば・・今度の日曜日は大石の家で勉強する事になってたんだったっけ・・・
「あっ不二・・悪ぃ・・実は今度の日曜日もう大石と約束してた」
ごめんって両手を合わせて頭を下げたら、不二はニコッて微笑んで俺の手を取った。
「やだなぁ英二。謝らないでよ」
「不二・・・」
せっかく一緒に作ろうって誘ってもらったのに・・・悪かったかな・・・
「で・・何時から始める?あっ・・その前に材料買いに行かなきゃね」
「へ?あの・・・不二?」
もしもし・・・俺さっき断ったんだけど・・・何で作る話?何でそんなに笑顔?
「大丈夫。その日は大石も用事が出来てる筈だから・・」
「えっ?そうなの?」
「たぶんね・・・僕の感だけど・・・」
「へ〜〜〜って・・・感だろ?」
「でも・・・良く当るよ」
「・・・・」
確かに不二の感は良く当る・・・
なんていうか・・・先の事が見えてるんじゃないかって思うほどに
その不二が大石に用事が出来るって言うんだから・・・何かあんだろうな
ちょっと気になるけど・・・まっいいか
たまには不二と一緒に彼氏トークしながら、クッキングも悪くない。
「んじゃあ。チョコ作りますか」
「宜しくお願いします。英二先生」
不二の言い方が可笑しくて、俺は声を上げて笑った。
よーし!そうと決まったら、大石がびっくりするぐらい特別美味しいの作んなきゃな!
あらためて見ると・・・不二出現率高いよね(笑)
まだまだ続きます☆
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